記録45号
今年の後半過ぎに、一寸体調を崩してしまって、しばしの入院生活のあと、ぼくは逗子の自宅住まいの身となってしまった。東京でのリハビリと多少の用件以外のほとんどの日々は、湘南方面の町々での散歩と軽いスナップ撮影を続けているわけだ。ただ、湘南の、逗子の、ということになると、そこにはどうしても中平卓馬という名が出てきてしまい、この度の、久しぶりの逗子生活につれ、ふと、そして何かにつけ、もう半世紀以上も経ってしまったぼくと中平との時についいて思いを致す時間が自然と多くなってくる。そして、夜ともなると、もうずいぶんも前に出版社から送られてきて、その当時はざっと目を通しただけで了ってしまった彼の本、中平卓馬・批評集成『見続ける涯に火が・・・』の全500ページ余りを余すことなく読むことが出来た。そして、そのつど言葉を目で追いながら、タクマさん、全くアナタの言う通りだよな、とか、エエッ!ナカヒラそうかなァ?など内心あれこれ思いつつ数夜で全て読み切ってしまった。逗子の、湘南の夜々は、結局もうすでに会うことの出来ない中平卓馬との懐かしくも淋しい対話の時であった。「記録」本号の写真は、4月半ばあたりから、ぼくが入院を余儀なくされた6月半ばまでにスナップしたイメージを中心として編集したものだ。もうそろそろ、池袋での、そして東京での日常に立ち戻って、変わりなきルーティンワークをと思っている。
― 森山大道(あとがきより)
- 判型
- 280 × 210 mm
- 頁数
- 112頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2020
- 言語
- 英語、日本語