記録52号
「記録」誌50号の発刊にさいして、AKIO NAGASAWA GALLERYの銀座スペースで、今年の5月末より10月頭に亘る長期のスライド・ショーが開催された。
会期中、すでにぼくは幾度となく会場に行って、7台のプロジェクターによってギャラリーの壁面にすき間なく映写される5,000点もの雑多なイメージの真中に立ち尽し、全身に当る光の破片のさ中で、日常とは遊離した不思議な感覚を体験した。壁の周囲にびっしりとスライドされている写真は、たしかに自分が写したものではあるが、視界に映り、間断なく入れ替わっていく時・空の錯綜につれて、たったいま目にするイメージたちがすらっと遠のいて、ぼく自身が、どこか遠くの見知らぬ風景のさ中を夢遊し、さまよっている感覚になり変っていく。
東京、マラケシュ、ニューヨークと、間断なく映りつづける奇妙なイメージの混乱は、すでにもはや写した当人を離れて、写真本来に在るアノニマスの方向へと立ち戻っていく。オレが撮ったイメージだからなどということは全く離れて、いつしか映るイメージにある<写真>という名のスプリットそのものになるわけだ。
ぼくは自らのスライド・ショーを観ることで、いまさらながら、新たなる感応の在り様を識った。
ギャラリーのドアを開けて一歩内部(なか)に入ると、一種得体のしれない音声が耳に伝わってくる。
?と思うその音声は、あちこちの街頭で録音されたさまざまな音色が、幾重にもダブって、マカ不思議なノイズと化して、聴くもののなかにしみ渡ってくる。
突如、女の矯声が紛れこんだりするのだ。
― 森山大道(あとがきより)
- 判型
- 280 × 210 mm
- 頁数
- 120頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2022
- 言語
- 英語、日本語