Daido Moriyama: Odasaku(日本語版)
織田作にさようならするために……
自由軒で名物カレーを食べる。法善寺横町をかっぽする。「めおとぜんざい」と書いた赤い大提灯を見る──。
思えば、ずいぶんと長い間、織田作に取り憑かれていた。難波から千日前を抜け、夕陽丘を登る。織田作が下りながら青春に別れを告げたように、織田作を振り切りながら口繩坂を降る──。もうこの坂を登り降りすることは二度とあるまい。幕引きに生國魂神社に向かう。源聖時坂はだらだらと長い。登りながら思う。心底もうこりごりだ。生國魂神社で織田作の銅像に会う。ソフト帽にトンビをひるがえしたそれは、小脇に抱えられるぐらい軽やかで、ブロンズ像の緑青と相まって、まるでピーターパンのようではないか──。イヤな予感が走る。ダメかもしれない……。神社の脇で一服中のタクシー運転手と話す。「織田作之助? ああ、あの『夫婦漫才』な」。ケケケと笑う声が織田作のそれと重なる。
織田作、織田作之助。大阪に生まれ、書き、東京に殴り込み、わずが3カ月で血を吐いて死んだ。
明るさをよそおったこの哀しい男に、どうして“グッド・バイ”などと言えようか。
僕にとって写真集は、2枚目のパスポートだ
──グラフィックデザイナー・造本家 町口 覚
森山大道、戦後近代文学、町口覚とのコラボーレーションシリーズ第3作目。無頼派の一人、織田作之助が1946年に発表した短編小説「競馬」と森山が大阪で撮影した写真作品がデザイナー町口の手により、拮抗する言葉と写真とが深く交じり合う”書物”として新たに編まれた。
- 判型
- 216 x 190 mm
- 頁数
- 180頁、掲載作品85点
- 製本
- ハードカバー、ケース
- 発行年
- 2016
- 言語
- 日本語