記録58号
過日、娘の車に同乗して、全くの久しぶりに横浜の市街に出掛けてカメラ散歩をしてきた。関内駅近くに車を停めて、やゝ暫く歩いていくと伊勢崎町の路に突き当り、目を上げると、あれれ、青江三奈の巨きな顔看板がにっこりと笑っているではないか。やはり横浜と嬉しくなり数枚スナップをしていると、おやおや今度は向いの方から女の子の一団が賑やかにパレードをしてくるではないか。当然ウロチョロ写したわけだ。人通りも多くなり、立ち並ぶ街路のビルの更に彼方には「みなとみらい」の高層ビル群が林立していて、ぼくは、うーむヨコハマもしたたかに変貌を遂げているわけだ、とつくづく感銘する他なかった。
かつて、と言っても遠い昔のはなしであるが、当時よくぼくは、同じ逗子の町に住んでいた写友・中平卓馬と連日のように横須賀線に乗って、横浜経由の東横線で一緒に東京へと出掛けていた。そんな乗り換えのとき、ふとよく二人で横浜駅から桜木町あたりまで、単なる気まぐれのままふらついて、コーヒーなど飲みにカフェに入りびたったりしていた。そんなときぼくが、オレこの辺少し撮りたいかな?と彼に話しかけても、当時中平は、深夜の川崎港近辺の景色以外には全く興味を示さず、コーヒーを飲んでいても、やれゴダールがどうしたこうしただの、その頃彼がお気に入りだった歌手のミーナ・マッツィーニの唄を、ああだのこうだの、そんなことばかり嬉しそうに話してばかりだった。
それも、現在にして思えば、一緒に行った深夜の川崎港での撮り狂っていた彼の思い出と、その後横浜美術館に於ける彼の個展時の横浜での中平卓馬の姿以外には、ぼくに横浜での思い出は見つからない。
横浜のいまの景色は、ぼくにとっては少々気掛りである。折り折りに撮り続けて行こうかと思っている。
― 森山大道(本書あとがきより)
- 判型
- 280 × 210 mm
- 頁数
- 104頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語