記録57号
たとえばいま、ぼくがふと、日本の写真(界)の現状ってどうなっているんだろうなんて思ったとする。
むろんそれは、たんにぼく自身がそれらをリアルに知ろうとしないだけのことで、日本に限らず世界の写真や写真家たちは、もうとっくにさまざまな形で、それぞれアクチュアルな現実として、シビアでリアルな活動をしているさ、と言われてしまうだけのことであろう。
そうか、それはそうだよなと思うことになるわけだが、しかし、改めていまのぼくにとって写真って何なのだろうと、問いにも応えにもならない感懐のなかに閉ざされてしまうときがある。
写真は、その一枚のシャッターを切った瞬間の写真家の思惟や感性の破片が写りこむのであるが、そしてそれを写した人の領域ということになるが、それがいったん印刷として再生されたり展示物となって様々な人々の視線に触れた時点で一枚の写真は、それを見る多くの人々がそれぞれ持つあらゆるグラデーションのなかに入りこみ、新たなる記憶·記念の有りようとして、記録という名の他に類をみないしたたかな現実となって、過去·現在·未来へと繋がっていく得体のしれない強大なツールとなっていくのだ。
たかがカメラ、されどカメラなわけであるが、ぼくらカメラマンは改めて、かのニセフォール·ニエプス氏にサンキュー·ベリーマッチと脱帽する他ない。
そんなことを思いつつも、今日もぼくはカメラを手に、街路をうろちょろしながらスナップして、うーん写真て何なのだろう?
でも写真っていいよなあと、思ってきたばかりなのだ。
― 森山大道(本書あとがきより)
- 判型
- 280 × 210 mm
- 頁数
- 104頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語