記録32号
いまから、半世紀も前のころ、ぼくは連日のように神戸の街をうろついていた。20歳を過ぎたばかりで、船が好きで、港が好きなぼくにとって、エキゾチックな神戸の町は、心ときめくワンダーランドだった。
今の神戸の町は、ぼくが遊び回っていた半世紀も前のころの神戸の町とは当然のごとく大きく様変わりしている、しかも、阪神大震災という壊滅的な打撃を受けた後の変貌には著しいものがあって、あの、ぼくの記憶の中の、若き日の夢に似たロマンティシズムを追走することは難しかった。しかし、記憶の街路を辿りながら、いまの神戸のリアリティとアクチュアリティにレンズを向けながら、それはいつしかぼくの心の内なる神戸のイメージへと、自然につながっていく感情を持った。
それはそうだ。海へと迫る美しい山々、山へと拡がる美しい市街地、そしてその真ん中を貫く1本の鉄路と、神戸の町は何一つとして変容してはいないのだから。
— 作者あとがきより抜粋
- 判型
- 220 x 278 mm
- 頁数
- 160頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2016