かぜとつちと
前作『MOTHER』(2020年 土門拳賞 林忠彦賞 最終候補)では、製鉄と金型の技能継承の現場を撮ることで、世代間の時空のつながりと断絶の両面を一冊のかたちにしてみせた写真家 紀成道。
本書では、島根県の奥出雲と呼ばれる地域で1,000年以上にわたって受け継がれているタタラ製鉄への興味を入り口としつつも、「かぜとつち」(=風土)に視点を広げることで、土地の自然や文化と人々の暮らしがどのように影響を与えあっているか ── その関わり合いに生起する事象が、現在に交錯するようにしなやかに写し込まれている。
空の色や天候が頻繁に変化し、まるで生きているかのように感じられる風土の様相。自然の力が織りなす独特の環境と、人々の信仰・生活文化が密接に結びついていることが見出される写真は、遠い過去から接続する記録であると同時に、流動的な現在の、これからを写すものにも見えてくる。
ダブルジャケット(両面表紙)となっている本書のテキストパートでは、「伝統を守ろうとしてやっているのではない。ただ楽しいから続けているんだ」という地域住人の伝統行事に関しての言葉も紹介される。
また、歴史を重ねながら土に還ろうとするわら蛇との出会いや、スリランカ移民として観光協会で働く人物の、過疎である辛い部分も隠さずに伝えようとするアプローチなどにも導かれながら、「土を守る力と見なせば、風は変える力を表す」── 風と土が交わる場所で実現される生物の多様性や復元力が、地域の未来を形作る力となるのではないか、と問いかけがなされる。
風と土とが摩擦する場所から、現在に続くこの先の在りようを眼差そうとする意欲作。
― 出版社説明文より
島根にいると自然は人間が操るものではなく、意思疎通の対象という認識がしっくりくる。たゆまぬ季節の移り変わりは恩恵を与え、悲しいことに災難と表裏一体でもある。風土が餅つきに笹巻き、酒、わら蛇をもたらせば、獣害も洪水も土砂崩れも引き起こす。しかしまた時が経てばそこに草木が茂る。だってそう、生物の多様性や復元力は、風と土とが摩擦する場所でこそ、確かなものとなるのだから。
このまなざしを社会生活に向けてみる。土を守る力と見なせば、風は変える力を表すだろう。老いと若き、先住者と移住者、双方の論理をわかり合うまで擦れて生まれる力が、地域の課題を解く時がある。島根ではまさにそんなたくましい人たちにたくさん出会えた。大自然に比べれば、また都市に比べても、密やかかもしれない。でも確実に、豊かな営みがそこにはある。
― 紀成道(本書テキストより)
- 判型
- 250 × 182 mm
- 頁数
- 168頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-86541-191-1