何処彼処列記 〜4〜
2020年に入ってからコロナが日本でも広がり始め、あれよあれよと4月には緊急事態宣言が発令され、当時働いていた米屋もその間は、月の半分が休みになりました。コロナに罹っては仕事を辞めなければならない空気も感じていた中で、休日に出向く街の路上にはほとんど人がいなくなってしまいました。
これまで撮ってきた、これからも撮りたかった状況が一変した時、「かつての路上では口元も露わに溢れるほど人がいた」という風に、かつての大阪の記憶が朧げになっていく焦燥感を感じていました。
こんな時は?と考える。
…?…家で過ごす余りある時間、手元には2019年11月にパリで撮影した時のプリントが70枚ほど。そうか、限りもあるが、僕が知りうる、路上で撮影をし続けて来た人達にこれを写真集にして送ろうと考えました。資金は無いので製本は自分で。これが何処彼処列記の始まりでした。
印刷を終え、1枚ずつ折り線を引き、その上にスクリューポンチで穴を開け、半分に折り、重ねていき、そして徐々に本の形が現れていく。その繰り返しの作業のせいか、コロナ禍でありながらもいつも通り街を歩きたくなる欲求が少しずつ大きくなっていきました。
大げさかもしれませんが、手製の中綴じの本が完成して増えていくごとに、形のないものに形を与えるという神聖な気持ちにもなり、撮影も今まで手を伸ばさなかったデジタルをやってみたいな、それで本を作ってみたいな、という今までにない軽さをもって2020年暮れから撮影し始めたのが今回の内容です。
撮影している間にコロナの影響もほとんど無くなり、街には人々が現れています。それはコロナ前の状況に戻ったというのではなく、変化し続ける街の極端な波の高低の狭間にいた時期だった様に思いました。未来には(賑やかな方がいいのですが)何が待っているのだろうか?この4冊目を作り終えて、これからはもうちょっとロケの時間を増やしていきたい、そんな理由で〈何処彼処列記シリーズ〉を今回でひとまず休止とします。
御購入していただいた方々、ありがとうございました。
― 山田省吾
- 判型
- 280 × 210 mm
- 頁数
- 260頁、掲載作品130点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2023
- エディション
- 70