何処彼処列記 〜3〜 Leh Ladakh 1997, 1999
1997年の10月、二十歳の時に初めてインドへ行きました。
英語も喋れずに行くインドはハードルが高すぎると言われていた通りに、真夜中の空港から一歩出た途端に怪しげな人に声を掛けられました。騙されてはいけないという警戒心はもろく、そのままタクシーに乗せられ、行くつもりのないカシミール方面への旅行ツアーの代金を支払わされそうになり、何が何やら分からぬままに、郊外の民家に連れ込まれ、人がギュウギュウに寝そべっている廊下を通り、奥の部屋に連れていかれたり…トホホに疲れた最初の1週間だったという記憶があります。そんな中で、首都ニューデリーから逃げだすように渡ったインドの北の端の街が〈レー・ラダック地方〉今回の撮影した場所になります。レーの空港からどうすれば良いか分からぬままに降り立った、行き場のない僕にYangchan Dolmaという女性が話しかけてくれました。結局その人が経営しているゲストハウスに2ヶ月半泊まる事になり、撮影の拠点ができました。最初の一週間は高山病にかかりはしたものの、回復した後、ようやく心置き無く撮影が始まったわけでした。
このレー・ラダック地方はヒマラヤ山脈、標高3400メートルぐらいの場所にあり、チベット文化が色濃く残っている所です。
と記したところで今となっては、25年も前の話で断片的に残る記憶よりも撮影した240本分のコンタクトシートに映る何処か遠くの世界と〈今〉対峙している事の方がより写真の面白さを受け止めている気がします。25年の時間の間に、記憶と写真が引き離されて、私が撮った事が重要ではなく、そこに写っている世界への純粋な興味の方が強くなっている、そんな状態で写真と向き合えるタイミングがやってきたと思いました。こんなに時間がかかってしまったのは、きっと若かりし写真家を志した〈私〉が初めての海外を撮影したという記念碑的な思いが強かったんだろうな、と思います。
あの時の〈私〉お疲れ様。そしてSingey Guest Houseのあなたに会えなかったらこの写真は撮れなかったです。Jule! Yangchan dolma.
― 山田省吾
- 判型
- 280 × 218 mm
- 頁数
- 248頁、掲載作品123点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2022