Piece of Colonne. Fragments of Waves
建築を被写体に作品制作に取り組む私は、建築というのは人間が作り、壊されるもので、そのような人間都合の塊に、私たちを生かす家の精霊のようなものが宿り、私たちを守ってくれる存在だと思っていた。建築がある日突然に、私たちに何の知らせもなく姿を消してしまうことなど、考えたこともなかった。
ドイツ・ライプツィヒのインダストリー通りに住んでいたころ、そのすぐ近くのエルスター・パッサージュの片隅のたばこと文房具の商店で、埃をかぶったメモブロックをみつけた。メモブロックは螺旋状のかたちをしていて、メモ用紙は7色(薄黄、薄赤、薄青、濃黄、濃赤、濃青、緑)で、一辺は糊付けされているため他の三辺よりも光沢がある。私はこのブロックの装飾性に惹かれて、さらに積み上げて「柱」をつくってみた。それを自然光で撮影したのがこれらの写真だ。マクロレンズを使い無限遠の先にピントを合わせることで、色の濃淡、光と影が融解された。ファインダーを覗くと色彩が迫ってきて、シャッターを切ることでそれを捕まえることができるような感覚がわいた。そのようにして色紙(いろがみ)のような写真がつくられた。
これらの写真を束ねてブックにして、これを空間いっぱいに広げてみたらどうだろう。ブックのページをめくるごとにあらわれては消える、寄せては返す波のような、とどまることのない風景を想った。遠くから誰かがつくった波が移りゆく様を眺めつつも、ぜひ作品にふれて、あなたの波をつくってみてほしい。慣れ親しんだ<ページをめくる>という行為が、日常とは少し違ったものに感じられるかもしれない。その瞬間の建築の気配が、私が本作「Piece of Colonne. Fragments of Waves (柱の一部分、波の破片)」によせたひそやかな想いだ。
― 飯沼珠実
- 判型
- 297 × 210 mm
- 頁数
- 132頁、掲載作品132点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2021
- ISBN
- 978-3-945111-77-2