ノクターン
2019年から2年間にわたり、山形県東根市を度々訪れ撮影。これまで男女のヌード作品で知られてきた野村が、モデルに対してと同じアプローチで街やモノ、移ろいゆく四季に対峙した新作品集。
写真家・野村佐紀子の研ぎ澄まされた感性のファインダーに、このまちはどう写し出されるのだろうか…。山形県東根市は、日本一の生産量を誇るさくらんぼをはじめ、四季を彩る果樹園、豊かな田園に囲まれている。一方で、空港、新幹線駅、高速道路を有し、工業団地には世界的な先進企業が集積。転入者数、出生率も高く、中心部にはナショナルブランドが建ち並び、誰の眼にも一見して住みやすく幸せなまちの様相を呈している。野村は2年にわたり、このまちを見つめ、撮影し続けてきた。乗用車の助手席で車窓に流れるさまざまな心象風景を拾い集めるように、静かに目を閉じ闇に浮かび上がる実像に心眼のシャッターを切るように…。そこで写し出されたものは、若き生命に満ちたエデンの果実、カタルシスの空を横切る鳥たちの影、生と死の陰影が交差するカーテンの小部屋、降り積もる静寂がすべてを覆う真っ白な雪原…。すべてが東根でありながら、野村佐紀子の新しい世界として写し出されている。それは幸せなまちの表層ではなく、その光に表裏一体として寄り添う闇のようにも見える。だが、私たちは、そのずっと奥に、愛のように本源的で多様な光を探すだろう。どんな闇のなかにあっても、ひとは心奥に微かな光を想うことができる。野村の写真は、夜の闇に明日を想う「ノクターン」のように、私たちの心に優しく響いてくる。
― 同名展覧会情報より抜粋
- 判型
- 156 × 218 mm
- 頁数
- 80頁
- 製本
- ハードカバー、ケース
- 発行年
- 2022
- エディション
- 650