深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ
1960年代から1990年代の初頭に活動した深瀬昌久の軌跡を辿り、その独自の世界に触れるレトロスペクティブ
「ある対象を撮って、それを捉え得るとは僕は決して思わない。自分にとって大事なことは、その中にどれだけ入っていけるかということ。どれだけ自分を反映できるかということ。ファインダーをのぞく行為自体が肉化したものでありたいということ。〈中略〉写真はもっと自由自在に使えるような気がしてならない。自分の存在をひっくるめての関わり合いができるのではないかと思う」
― 深瀬昌久、1969年
深瀬昌久は自身の私生活を深く見つめる視点によって、1960年代の日本の写真史のなかで独自のポジションを築きました。それは写真の原点を求めようとする行為でもあり、のちに「私写真」と呼ばれ、写真家たちが向かった主要な表現のひとつとして展開していきます。
深瀬は妻や家族など、身近な存在にカメラを向け、自身のプライベートを晒しながら、自己の内面に潜む狂気に意識を向けていきます。その狂気は、被写体に対する愛ある眼差しと、ユーモラスな軽やかさが混在し、深瀬作品を特別で唯一無二なものにしています。
本書は、代表作である「遊戯」「洋子」「烏(鴉)」「サスケ」「家族」「ブクブク」など、充実した作品群をハンディな判型の中に収載。1960年代から1990年代の初頭に活動した深瀬昌久の軌跡を辿り、その独自の世界に触れるレトロスペクティブです。
深瀬が生涯をかけて見つめたものとは大半が身近な存在だった。言ってみれば、誰でも思い立てば気軽に撮れるような対象と向き合いながらも、その写真には決定的な本質があり、胸が詰まるほどの切実さこそが、彼を写真家・深瀬昌久にしたのだ。
蓋を開けてみれば人並み外れた感性で写真を撮っていた深瀬とは、先見の明と実験的意欲に溢れた写真家だった。誰もがカメラの代わりにスマートフォンで対象を触れ愛でるように撮り、風景とツーショットを撮ることが当たり前になったこの時代にこそ共感できる視座や知覚、あるいは人が写真撮影を楽しいと感じるその根源さえも、彼の表現の随所から確かめられるはずだ。深瀬は過去に置き去りとなっていたのではなく、ずっと先の未来で写真と戯れながら、私たちの到来を待っていたのである。― トモ・コスガ(深瀬昌久アーカイブス ディレクター)
本書収録テキスト「主客未分の戯れ、愛と写真のパラドックス」より抜粋
― 出版社説明文より
- 判型
- 220 × 148 mm
- 頁数
- 216頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2023
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-86541-166-9