春は曙
1989年、楢橋朝子の旅。写真家としての原点を照らし出す未刊の最初期作品群
本書に収録された写真は、1989年に撮影された写真家・楢橋朝子の最初期の作品群である。
それから34年を経て刊行することとなったこの写真集のために、楢橋は当時展示で発表したイメージだけでなく、未発表のイメージも含めてこの年の写真をあらためて見返し、79点を選んだ。この写真集を編むことは、写真家としての自らの出発点を再訪する作業だったのかもしれない。熊本、博多、那覇、石垣島、竹富島、三宅島、御蔵島、横浜、横須賀、東京、湯沢、八戸、三沢、竜飛や十三湖や小泊など津軽のあちこち......撮影地は南へ、北へ、島々へと広がっている。
『春は曙』は現在に至る楢橋のすべての作品のエッセンスを内包しているのかもしれない。とりわけ水辺のカラー作品のもつ、どこか不安定で不確かな、地名性を欠きながらも踏み入った土地の空気を吸い上げていくような感覚、暴力性と繊細さ併せもった感性のいずれをも、1989年の作品は既に宿しているように見える。1989年、昭和は終わり平成となった。天安門事件、ベルリンの壁の崩壊をはじめ、歴史や経済、社会の仕組みが世界のあちこちで揺れ動き、地球規模の気候変動が意識され始めた年でもあった。淡々と、けれども何かに抗いながら作家活動を続けてきた写真家の、最初の歩行を私たちはここに共有する。
― 出版社説明文より
- 判型
- 173 × 257 mm
- 頁数
- 120頁、掲載作品79点
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2023
- 言語
- 英語、日本語