ギプス
本書に収録されているのは、水際の光景を独自の手法で捉えたカラー作品で知られる写真家・楢橋朝子のウイットとユーモアに富んだ90年代初頭のモノクロ写真群。四半世紀を経て、当時個展で発表した作品に未発表写真も加えて、「ギプス」が主人公の稀有な写真集が誕生した。
1989年にモノクロ作品による初個展を開催した翌年、楢橋朝子は自身のギャラリー、03FOTOS(ゼロサンフォトス)を立ち上げ、90年代を通してモノクロ写真による多数の個展を継続的に開催していくことになる。03FOTOSは、70年代中頃から東京を中心に始まった、自由な発表の場を求める写真家たちが自ら運営するインディペンデント・ギャラリーの流れの一つだった。
個展を間近に控えた1991年春、展示する新作について思案を巡らせていた矢先に、予期せぬ出来事が起こる。新宿の飲屋街で躓き、足指にヒビが入りギプスと松葉杖を強いられた。常に新しい写真を展示することを信条にしていた楢橋は、半ばやむを得ずカメラをギプスに向け、以前から友人らと予定していた群馬県南西部の神流町(かんなまち)への温泉旅行も決行した。その顛末と写真家として出発した頃の日常は、巻末エッセイに詳しく語られている。
今までこれらの写真を見返す気にならなかったのは、過去を振り返るのはまだ早いと思っていたことが大きいが、ここに写っている自分と再会したくなかったということもあることを告白しておく。記憶というものはとても曖昧で、いいことばかりを思い出したり、都合よく忘れたり並べ替えたりもするものだ。若かりし自分との再会は、ほろ苦く甘酸っぱくもある。
― 収録エッセイ「ケガの功名?」より
― 出版社説明文より
- 判型
- 200 × 148 mm
- 頁数
- 64頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2018
- ISBN
- 978-4-905254-08-9