Snowflakes Dog Man
「Snowflakes Dog Man」
ある雪の日、飼っていた黒い犬と散歩に出かけた。そこはかつて、父がこの犬と通った道だった。私は犬に引かれるままに歩いた。やがて一本の道が私たちの前にあらわれた。道は雪の彼方に消えていった。リードを外すと、犬もその白の先に消えていった。それはまるで黒い絵の具がキャンバスに溶けていくようだった。私は父と彼が歩いたその道を知らなかった。
父との関係は良くなかった。長い間、距離を置いていた。ある日、実家に戻ると父は余命を告げられていた。死後数年が経ち、彼の部屋で偶然見つけたアルバムを開いた。遠い記憶の中の自分が私を見詰めていた。それらを眺めながら、ある部分の記憶が思い出せない事にふと気づいた。私はしばらくして、かつて訪れたであろう場所を再訪してみようと思った。アルバムの中に写っている場所、もしくは私の記憶の断片が描き出そうとする場所。
私には「埋める」という作業が必要だった。たとえそれが「本当の場所」を示す事は無くても。
雪に消えた黒は戻ってくることはなかった。
私はゆっくりと彼の足跡を辿り始めた。
― 木村肇
- 判型
- 384 × 190 mm
- 頁数
- 222頁、掲載作品212点
- 製本
- ハードカバー、ケース
- 発行年
- 2019
- エディション
- 450
- ISBN
- 978-8-894196-08-5