眠る木
見慣れたはずの風景の細部のなかに、いく層にも折り重なっていること。
沖縄で生まれ、再びその地で暮らしながら写真を撮る、上原沙也加の初写真集。身近な街を歩き、ときにバスで離れた街に降り立って撮影する風景には、ほとんど人は写っていない。
マネキンの指、レストランの客席、ジュークボックスを掠める機影、布貼りの聖書、マクドナルドのサイン......。すべて日常的な光景は人の営みを湛え、声なき声で語りかけられているような気配を帯びる。自分の生活の場所から、それぞれが経てきた時間を想像するような地続きの眼差しが、写真にある。いくつもの痕跡を秘め、歴史の層を重ね、存在が消失してもなお、そこに在る風景。複雑な時間への回路と、沈黙の奥にある痛みを写真は指し示す。
タイトル『眠る木』は、本書に収められたさまざまな木のシルエットと同時に、ギンネムを殊に想起させる。又吉栄喜が小説「ギンネム屋敷」の扉に、「終戦後、破壊のあとをカムフラージュするため、米軍は沖縄全土にこの木(ギンネム)の種を撒いた」と記すように、沖縄のどこにでも繁茂しているギンネム。土地に根を張ったこの木から、フェンスのような表紙の模様は施された。その上に、明暗のあいだに浮かびながら、マネキンの指の写真はある。
― 出版社説明文より
柴崎友香(小説家)と仲里効(映像批評家)が巻末に寄稿を寄せている。
- 判型
- 219 × 205 mm
- 頁数
- 160頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2022
- 言語
- 日本語
- ISBN
- 978-4-86541-159-1