Planet Fukushima
バラバラに時を刻むあらたな時空間とレイヤー
「Fat Fish」と「Little Fish」━ Planet Fukushimaから
福島県伊達市出身の菅野純は、東日本大震災を経た郷里の人と風景を10年にわたり撮影し『Planet Fukushima』を編みました。写真集は、身近な人や光景を撮った「Fat Fish」というパートと、それと同じ場所で線量計を手に持ってスナップした「Little Fish」というパートから成ります。
「Fat Fish」には、2014年あたりから出現した新たな光景ー放射性物質の「仮置き場」を俯瞰で捉えた写真が繰り返し出てきます。偶然出会った山間にあるそれは魚の形をしていて、除染で除去した土や草木を入れたフレキシブルコンテナバックの一つ一つが魚の鱗のようにも見え、あたかも海から津波で流されてきた巨大な魚のようだと菅野は言います。「Fat Fish」のコンテナバックが増えていくのとは逆に、近所の農家のおじさんが老いていき、震災後に生まれた少年が成長し、また毎年同じ時期に執り行われる地元の行事があります。船の形の植木は伸縮を繰り返し、一方で小さくなっていくように見える少女も現れます。定期的に撮影されたそれらは、みな、時間の進行がバラバラで、一方向ではなく、被災後の福島に流れる独特な分断された時間の流れを体現しています。
また、撮影をつづける菅野には、同じ空間に存在するはずの事物が、層を成しているように見えてきます。手前の人(近景)と遠くの山(遠景)の間にある、放射能という異物(中景)。さらにカメラのレンズと人物の間の空間(接景)。「Fat Fish」は事故がもたらした非日常的風景ですが、日常的風景の中にも、見えない放射能のレイヤーが重なっていることを捉え、そうした空間にフォーカスしていきました。
「Fat Fish」と「Little Fish」は同じ場所を同じ時に撮影していますが、異なる視点によるものです。さまざまな視覚経験の集積である本書は、2つの「Fish」を分離した上で同じ表紙にくるみ、左右両開きで同時に展開することを可能にしています。福島のことを見るとき、地球のことも考えられるー「Planet Fukushima」はミクロとマクロの関係を探りながら、新たな視点を投げかけています。
― 出版社説明文より
- 判型
- 182 × 257 mm
- 頁数
- 304頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2023
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-86541-162-1