Autrement q’être
森下は、「存在」や「関係性」を核となるテーマにしています。事象を見つめ、シャッターを切り、暗室でプリントを制作、印画紙の上に二次元の視覚表現として立ち上がらせる、という変哲のない写真行為の繰り返しのなかで、写真を通して世界の原質に触れようとし、世界という存在を証明することを希求し続けています。
2017年にはアスタリスクというフォトブックレーベルを立ち上げ、自身や若手作家などの写真集を出版、展覧会やレクチャーなど幅広い活動を続けています。2021年1月には第19回千葉市芸術文化新人賞奨励賞を受賞。今後の活躍が期待される写真家です。
前作「Dance with Blanks」では遠景や、近景のランドスケープを中心に展示。ビル群や木々が却って、空や、建物の狭間などの空白を際立たせることで、観る者の視線を誘い、タイトルにあるBlank(空白)は、仏教における「空(くう)」という概念に通ずるものとして印画紙の上の新たな空間を想像することを試みました。
本書は、敬愛するフランスの哲学者、エマニュエル・レヴィナスの著書表題から取った、「存在するとは別の仕方で」(合田正人訳)をタイトルとしています。前作同様に6×7センチ判のカメラを用いて風景に対峙しながら、同時に、2014年ごろより試行錯誤を続けてきた、4×5インチの大判カメラによるモチーフを写した作品の二つから成っています。6×7の作品は、自身がこれまで被写体としてきた都市を離れて日本国内各地を周り撮影しました。その場所にある静かに積み重ねられた時間が、森下の作品に写ります。写真には「何か得体の知れないもの」が写ると信じ、そこから人間や物の存在ということを思考し続ける、祈りにも似た森下の写真制作は、本作にて「もの」を撮影するという新たなスタイルとなって結実しました。身の回りにある用を成さない「価値や意味が宙に浮いてしまったもの」が題材となり、抽象的な画を結んでいます。
「以前、大日方欣一さんとトークをしたのだが、その終盤、制作について問われた際、不意に『一人きりで宗教をやっているようなものですね』という言葉が口をついて出た。それがずっと意識のどこかに引っかかっていたせいか、今回の制作でも、何かを祈っている人物が写っている作品がある。写真家は何かを信じているのだろうが、それが何かは判然としない。そんなわからなさ、得体の知れなさを、写真家自身も含まれる『写真」という運動体にどのようにして担保し続けるのかが重要だと考える。」
― 森下大輔
― 同名展覧会説明文より
- 判型
- 280 × 223 mm
- 頁数
- 96頁、掲載作品48点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2023
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 300
- ISBN
- 978-4-9909567-7-6