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僕の印象では、上海はすべての物事が流動的なように思える。街沿いの改装された店舗、建物の取り壊しと再建、まるで取り壊される前の建物の外壁に塗られた白いペンキのように、すべてが再生されている。これらの再構築された「表象」を見ていると、人々はこの土地に存在した景色を思い出すことができるのだろうか?
もしかしたら、あるお店が改装される前、この小さなスペースに何十年も住んでいた家族がいたのかもしれない。あるいは、高層ビルが建設される前までにコミュニティが存在していたかもしれない。そのコミュニティの中心地にある大きな木の下には、小売業者や靴修理職人、またトランプをするおじさん、おばさんなどが集まって、彼らにとってその木は記念碑的なシンボルであり、共有の記憶の集合体だったのである。だが、それらの記憶は、掘り起こされる土や埃のように、太陽の光に照らされた空気の中で消えていき、忘れ去られていくのである。
僕のこの街に対する記憶は、幼い頃に母に連れられて行った公園や通りにこびりついているようだ。僕は子どもたちが壁に書いた気まぐれな落書きや、一見非論理的な数字を見るにつけ、おそらくこれらのいわゆる「記号」っていうのは、私たちが成長して大人になったある瞬間に襲ってくる「記憶の鍵」になるのだろうと思う。
こうした見慣れた場所や見慣れない場所を歩くと、目の前の光景は、シャボン玉や埃、水滴、日の光や風向きのように、鮮明さとぼやけの境界線に繰り返し動き、夢のようで不確かさに満ちているのだ。僕にとって、多くのものの美しさは一瞬の中に存在するものである。あのコミュニティの中心にある大きな木のように、「写真」は共有された記憶を運び、私たちの一部の失われた何かを呼び起こすことができるかもしれない。
― 洪鋭深
- 判型
- 295 × 210 mm
- 頁数
- 88頁、掲載作品60点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2023
- エディション
- 20