巡る犬
旅先の1ヶ月ほど働かせてもらった小さな牧場にお腹の大きな牛がいた。
その牛は放牧されていて、独りでに産み落とすらしい。
どんなふうに出てくるのか見てみたい、満月だからと夜中に牛の影を探したりもした。
その日のお昼休みも牧草の中に横たわる牛を見つけてゆっくりと近づいた。
近くまでいくと群がっていたものがいっせいに飛び立つ。
牛はお腹が大きいまま死んで眼球だけが食べられていた。
東京へ帰る日が近づいたある日、牛舎で草を掃いていると遠くから同僚が手招きをしている。
牧草までついていくと指さす先に何か落ちていて、産まれたばかりの子牛だった。
― 中間麻衣
- 判型
- 252 × 210 mm
- 頁数
- 56頁、掲載作品43点
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2024
- エディション
- 300