木立を抜けて
2009年1月、年明け早々に祖母が入院した。
余命は3ヵ月と宣告された。
僕は時間がある限り実家に帰り、居なくなってしまう祖母の写真を少しでも残したいと思った。
会いにいくたびに痩せて弱っていく祖母の写真は殆ど撮ることはなかった。
でも、実家に帰れば祖母の影を追うように実家周辺を歩いては写真を撮った。
死の宣告通りに祖母は4月に他界した。
お葬式、四十九日、お盆があっという間に過ぎた。僕はその後も実家に通い写真を撮り続けた。そして、2009年は終わった。
写真の整理を始めると、少しだけ残った祖母の写真からよりも実家周辺の風景を撮った写真から強く祖母の存在を感じることが出来た。人の記憶は少しずつ薄れてしまうけど、祖母と過ごした故郷の小さな風景、そこに刻まれた記憶の欠片はきっとこの先も残っていくんだと感じた。
それまではどんなに変哲もなかった風景でも、今となっては美しい記憶になっている。
村越としや
東京を拠点に制作を続ける村越は、2006年以降故郷を被写体に選び、そこで過ごした記憶をなぞるように継続的に撮影を行っています。それらは、2008年以降既に5冊の作品集に纏められ、加えて自身も参加メンバーである自主ギャラリーTAP等で展覧会を行うことで積極的に発表されてきました。今回展示される作品は、2009年祖母の死を経験したことで、地元の風景を撮ることと家族との思い出がリンクするようになった時期に撮影された作品で、『雪を見ていた』(2010年刊)、『土の匂いと』(2011年刊)に続くシリーズとして纏められます。村越は東日本大震災以降さらに撮影を続け、それまで以上のペースで作品発表を行っていますが、新作と並行して過去に撮影された作品の発表も同じように行っています。
- 判型
- 183 × 155 mm
- 頁数
- 40頁、掲載作品19点
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2013