Tokyo Fishgraphs
2022年の夏の夕方、私は浮世絵の傑作「名所江戸百景」を描いた歌川広重の墓を訪ねた。私は彼の浮世絵と2020年東京オリンピックに着想を得た作品を創り上げたことを伝えた。2020年の東京オリンピックは奇妙な夢を見ているような時間であった。世界中から多くの人が東京に訪れるための期間は、パンデミックにより街から人が消え去るという、誰も予想しない真逆の状況を作り出してしまったのだ。私はこの期間、早朝鮮魚屋で可愛らしい魚を探し、誰もいない道で彼らを撮ることに夢中になった。そして、その場所として名所江戸百景の中で過去描かれた東京の各名所を選んだ。これは人と対面できない期間の私の創作意欲を満たした。日本美術には「見立絵」と呼ばれる手法がある。見立絵とは「ほのめかし」「洒落」「ずれ」など、遊びや機知に富んだ表現を用い、歴史や伝承的故事を現代になぞられて、時に面白可笑しく表現する、日本美術の浮世絵の一種の手法である。私はこの制作過程で、広重にもキャリアの中で魚を描くことに集中した期間があったことを知った。その広重の作品は「魚づくし」と名付けられていた。つまるところ、本作は広重の描いた魚達が名所江戸百景から無観客の東京オリンピックを盛り上げたという現代の見立絵として制作したのだ。今思い返すと、これはパンデミックの期間だけ夢中になることの出来た奇妙な夢の中の儀式のようでもあった。歴史と場所が時に織りなす奇妙なパズル、この本は東京から生まれたそんな奇妙な偶然の産物かもしれない。
― 原田直宏(「Libraryman Award」2022年受賞作品について)
- 判型
- 261 × 228 mm
- 頁数
- 80頁、掲載作品70点
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2022
- エディション
- 500
- ISBN
- 978–91–88113–59–7