HIROSHIMA 1965
1965年3月から8月まで、「ヒロシマから広島へ」20回の連載のため、ぼくは広島へ通うことになった。
熱に溶けて歪んだビンや時計や、被爆者の着ていた黒焦げのシャツなど、原爆の悲惨さを訴えるような写真を撮るつもりは皆無だった。
原爆投下から20年経過すると、街は日常の生活空間に復帰して、あの忌まわしい記憶を宿した〈もの〉を見かけることはできない。原爆ドームも観光的なモニュメントにすぎず、〈恐怖〉は平和公園の原爆資料館の中にひっそり匿われてしまっている。
しかし、街には原爆の影のようなエアーが残っていることは明らかだった。それは、何気ない日常のなかに潜んでいる空白と混ざりあい、変容し、助長しているように感じられる。
よくはわからないまま、ぼくは目に見えない不思議エアーにカメラを向けて、写真を撮っていたのだとおもう。
― 石黒健治による本書あとがきより
- 判型
- 240 x 210 mm
- 頁数
- 160頁
- 製本
- ハードカバー、スリップケース入り
- 発行年
- 2018
- 言語
- 日本語、英語
- エディション
- 900