Hijack Geni
『Hijack Geni』は、写真家の千賀健史が、彼の家族が実際に体験した「オレオレ詐欺」にインスパイアされて制作したアーティストブックである。
2003年に初めて世間に知られるようになったこの詐欺行為は、現在も年間約300億円もの被害を出し続けている。千賀は両親との会話の中で、自分の母親がこの犯罪のターゲットになっていることを知った。この発見をきっかけに、千賀は数々の報道や取材を掘り下げ、その状況や心理的な手口を通して、特殊詐欺組織に対する相反する感情を経験することになる。千賀はドキュメンタリー映画作家のように、アジトとなるスペースを借り、詐欺電話がかかってくる場所をうろつき、詐欺に必要な道具まで購入した。また、高齢の被害者と会い、電話をかけ、ATMでお金を引き出すシミュレーションをするなど、詐欺の手口に従って行動した。
実際に犯罪を犯したわけではないが、直接的・間接的に詐欺シンジケートのさまざまな役割を体験することで、千賀は自分の顔をベースにした90人の架空の人物像を作り上げた。その結果、本書における文脈と写真の関係は、読者を詐欺の共犯者にしてしまう。
― 出版社説明文より
最盛期には1年間で500億円もの被害を生んだ特殊詐欺。2003年、いわゆるオレオレ詐欺が世の中に知れ渡りだした頃、この犯罪はいわゆる裏社会の人々によって行われていた。そこから次第に彼らに縁のある人が関わりだし、今や犯罪とは無縁に生きてきた“一般人”がその要ともいえる存在となってしまっている。
詐欺といえばそもそも一部の暴力団では、外道の行いとして禁止されていたような犯罪である。それを、生活費の為に、夢を叶える為に、遊ぶ為に、家族を支える為に、“仕事”として行うものが後を絶たない現代社会は極めて異常である。この世を埋め尽くす嘘と欺瞞は日常のあらゆる場所で知らぬ顔をしてこちらを見ている。この作品に取り組みだした頃、数々のルポやインタビューを読みながら加害者側の置かれている状況や心理について共感するものを感じながらも遠くで起きている物語として受け止めていたのだが、ある日、両親と話していて母親が特殊詐欺グループのターゲットである事を知ることで、自分の中で矛盾する気持ちが生まれ始めた。
撮影期間中は詐欺グループの一員のような日々を過ごしていた。詐欺グループがさまざまな役割を演じるように、自分の顔を元に、90名の高齢者と若者の架空のポートレートを作成した。
文脈と写真の関係は読者を嘘の共同製作者に仕立て上げる。特殊詐欺とはそういう犯罪なのだ。
だから、プロジェクトのために撮影したイメージを水溶紙に印刷して、溶かし、全て無かったことにしているとなんだか少しホッとした。
詐欺グループも証拠隠滅している時はそんな気持ちだったかもしれない。そうして出来上がった矛盾と嘘の塊が本作である。
想像の中で私は加害者であり、被害者であったが、現実では第三者である。溶けて見えなくなってしまった彼らを包摂する水だ。そのあり方は彼らを大きく動かすだろう。― 千賀健史
- 判型
- 257 × 182 mm
- 頁数
- 612頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 979-11-85374-96-3