Cairn
2018年7月に訪れたアイスランドで1ヶ月間ほど歩行や野営をした、自身の体験を一冊にまとめた写真集。― 小林茂太「cairnについて」
これは、遭難についての記録である。
妻との間に子どもを授かった時、
自分自身の中で何かが消えていくような感覚があった。
何を考える訳でもなく、また何を考えられる訳でもなく、
視線をただ窓の外に置いていた。漠然と「個」という事について考えていた。
そもそもその定義にどのような意味があったのだろうか。
あるいは、世界と自分とを繋いでいるものとは何であったのだろうか。
とにかく一人になる事で向き合った。見知らぬ町の通りから霧でもやがかった山の道まで、目的地のない歩行を続けた。
白夜は時間感覚を狂わせ、慣れない野営は内と外の境界をあやふやにし、
GPSが示す道でさえ時に疑うようになった。
そして、気がつくと思考するよりも先にシャッターを押していた。
異言語の会話、誰もいない裏庭、テントを揺らす風、なんの変哲もない地面。
次々に現れる些細な物事が、現実だと思っていた基準を変えていった。今だに進むべき道はわからない。
しかし、確かにここまで歩いてきた。
その証のようにこれらの写真は存在している。
道標はいつも世界と自分の間に立ち現れるのかもしれない。― 小林茂太
- 判型
- 220 × 150 mm
- 頁数
- 192頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2020
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 300