吉田寮学生寄宿舎史

吉田寮学生寄宿舎史

野村幹太

出版社:Cesura

「吉田寮学生寄宿舎史」

これは日本で最も古い学生寮、吉田寮のものがたりである。

吉田寮の前身である京都帝国大学寄宿舎が誕生したのは1897年、今から100年以上前に遡る。吉田寮は長きにわたって学生自ら運営を担ってきた自治寮である。また、芝居や音楽の上演のため、学内外から多くの人が集まり学生文化の醸成する場所でもあった。

近年、大学が建物の老朽化などを理由に、全寮生の退去を求め、寮の存続を求める寮生と対立している。両者の溝は埋まらないいまま、2019年4月、大学は建物の明け渡しを求めて居住する学生らを相手取り提訴するに至った。

この先行きが不透明になっている吉田寮の写真を撮り始めて10年ほどになる。

吉田寮を初めて訪れた時、廃屋のような屋敷の玄関から一歩踏み入ると薄暗がりのなかに脱ぎ捨てられたサンダルや汚れた布団、口の開いた調味料や酒瓶が目に入った。そこには皮脂や汗のような体臭の他に、少し時間がたった食べ物や吸い殻、床や畳に染み込んだ湿気など、ある種独特な匂いが立ちこめていた。建物の至るところに、幾世代にもわたって寮生たちが蓄積してきた多種多様な垢の匂いが確かに刻まれている。訪れるたびにそれらは気配となって密度を増して感じられるようになり、その気配が放つエネルギーに私は強く惹かれていった。

また、この匂いは私自身の学生生活の記憶を鮮明に蘇らせた。当時の怠惰な自分に重ね合わせるところもある反面、私が学生のころに持ちえなかった情熱への羨望、学生時代を完全燃焼できずに終えたという思い…。匂いをもとに彼らの記憶を巡りながら学生生活を追体験してきた10年だったかもしれない。

百年の時を経たこの吉田寮には、ここに集まり、通り過ぎていった無数の寮生たちが残してきた痕跡や記憶がある。それは濃厚に発酵し、強い残り香を今も放っている。

― 野村幹太

キーワード: 京都 写真史

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判型
230 × 160 mm
頁数
230頁、掲載作品130点
製本
ソフトカバー
発行年
2022
ISBN
978-88-945611-9-7

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