The Last Cabaret
2016年に禅フォトギャラリーより刊行した写真集『新宿迷子』にて第36回土門拳賞を受賞した梁丞佑は、その後も新宿に通い続け、変わりゆく街の姿をカメラにおさめていた。そんな中ふとしたきっかけで歌舞伎町の伝説的なキャバレーのオーナーの知遇を得て、店が閉店するまで約1年の間、そこに集まっては散っていく老若男女の姿を記録した待望の新刊写真集。
私が吉田さんと出会ったのは、1年半ほど前。以前から「ロータリー」の存在は知っており気になってはいたのだが、私には敷居が高くて入れずにいたのだ。ある日、時々撮影させてもらっていたドアマンの高橋さんの写真を撮っていると、高橋さんが「会長がこういうの好きだから、上に上がって」と言ってくれた。うっすら期待はしていたものの、まさかほんとに入れるなんて。そして、会長の吉田さんに会い、撮影もあっさり許可された。会長は、この世界では伝説と呼ばれており、歌舞伎町で商売をしていて彼を知らない人はいないんじゃないかと言わるほどの人物だ。
いざ中に入ってキャバレー「ロータリー」の中を見渡すと、本当に昭和が色濃い。実際、そこにいる人々には自分のクラスメートばりの親近感がわいた。ホステスの最年長は72歳。そして、なんとここのナンバーワンが彼女だという。なんとも興味深い店だと感じ、通い始めて1年。「あと1ヶ月で店を閉める。」突然の閉店となった。毎月、そろそろ閉めないと、と言っていたが、まだ先だろうと思っていたところだった。
そして閉店直後からコロナウィルスが本格的に流行し、歌舞伎町からも人が消えた。1月の終わりにここまでの状況になることを予測していた人は、そんなにいなかったんじゃないかと思う。もちろん吉田さんも予測したわけではないのだが。この辺りも吉田さんの伝説たる所以かもしれない。跡地には老舗ホストクラブが入る予定になっていたが、白紙となった。何も無くなった240坪の広い敷地は、さながら運動場のようだった。
― 梁丞佑
- 判型
- 210 × 297 mm
- 頁数
- 144頁、掲載作品142点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2020
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 700
- ISBN
- 978-4-905453-97-0