Melting Landscape
第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2021年5月22日〜11月21日)で開催された展覧会「How will we live together?」で、日本人建築家・海法圭が出展したプロジェクト「Melting Landscape」に併せ刊行。53枚のカードから構成されている。
人と雪はどのように共生しているでしょうか。微細なチリが核となって雪が生まれるという小さな事象から、みんなで雪合戦をする身体スケールの事象、さらには地球の公転や太陽との位置関係が一因となり雪が発生するという惑星規模の事象。
このような複雑かつ多岐にわたる雪と人の生態学をより深く理解するために、両者の共生の事象群をアートディレクター田中義久とともにカード式の書籍にまとめました。
― 海法圭
人が雪を冷たいと感じたとき、雪は人のことを暖かいと感じているでしょうか。人と自然は奪い合うのか。それとも与え合うのか。
私たちの惑星にとって水はかけがえのない資源の一つです。そして雪は、水が地球上を循環する際の状態の一つです。この循環の中で人と雪はどのような理想的関係を紡ぐことができるでしょうか。本プロジェクトは、両者のさまざまな関係を生態学的に調査することで、新しい関係を作るきっかけを探します。
この書籍は、ヴェネチア建築ヴィエンナーレ2021の展示品の一部として、アートディレクター田中義久とのコラボレーションのもと、雪と人の生態系を示すために作られています。古くから氷や雪は、冬の間に蓄えられ、夏に利用されてきました。世界中でさまざまな形で行われてきたこの技術は、1950年代に近代的な冷蔵技術に取って代わられました。しかし近年、エネルギーコストの上昇や持続可能性への関心の高まりを受けて、この伝統的な技術が再び注目されています。
雪の貯蔵庫が普及し、雪からエネルギーを生成する新しい技術が開発されています。
私たちは、日本の山で食料を保存するために使われていた伝統的な雪貯蔵庫「雪室」の現代版を設置しました。本来の設定では、雪の利用は繊細なシステムにつながっています。気候変動、土地の消費、金融危機、都市化、汚染、限られた天然資源の持続不可能な使用など、大きな影響を受けている安塚の小さな村は、経済の一部を「雪室」に頼っています。集められた雪は、公共施設の空調、農業、食料生産、繊維産業など、さまざまな活動に利用されています。安塚に暮らす人々にとって、そして私たちにとって、そもそも雪はどのような存在なのでしょうか。なぜ人びとは豪雪地帯に暮らすのか。雪の厳しさと美しさの相反性とは。
雪の周りは、常に矛盾と複雑性に満ちています。ビデオディレクター御巫朋子による映像を通して雪の正体に迫ることで、人と雪の共生の可能性を探ります。また本プロジェクトでは、イタリアの山から持ってきた雪を利用して大きな雪の山を作ることで、パヴィリオンを雪室にコンバージョンし、雪の新しい利用法の開発や雪に適用する新しい技術の研究を行います。雪山はスノーエンジニアの伊藤親臣とのコラボレーションであり、温湿度計を用いた観測と分析はミラノ大学環境科学政策学部とのコラボレーションです。
このプロジェクトを通して安塚を始めとした豪雪地帯において、外皮の断熱が不十分な既存建物を、将来的に雪室として活用する可能性を探ります。
― 本書冒頭文章の日本語文
- 判型
- 92 × 60 mm
- 頁数
- 53頁
- 製本
- ケース
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語
- ISBN
- 978-4-908526-45-9