不自然な自然
北海道出身の写真家・桑迫伽奈のデビュー作品集。撮影時の身体感覚の再現をストレートな静止画とは別のアプローチで試み、撮影地(森や山)の成り立ちや“自然”という概念についても思いを巡らせたシリーズ「不自然な自然」。
作品を大きいサイズで見て欲しいという想いから、カレンダーのような仕様になっており、一枚一枚切り離すことも可能。
北海道・札幌にある三方を山に囲まれた土地で生まれ育った私にとって、山や森林はとても身近な存在で、当たり前のようにそれを“自然”と呼んでいた。しかし、日本の森には人の手が入っていることがほとんどで、森林のうち40%は人工林で、50%ほどある自然林も保全のためにそのほとんどに人の手が入っている。その人工林、あるいは二次林とも呼ばれる自然林の大部分は人間による伐採や自然災害によって以前の森林が失われた跡地に成立したものある。これは150年ほど前まで過度な森林利用により木々が伐採され続け、はげ山と呼ばれる荒廃した森林になってしまったことが大きな原因のひとつで、法律の制定や経済・生活環境の変化に合わせて次第に森林が回復してきた。統計から見ても現在に至るまで年々人工林が増えていることが分かっている。
自分の暮らす土地の山々の成り立ちや抱える問題を知るにつれ、昔からそこにあると思っていた景色はそうではないということに気づき、“当たり前”という概念が静かに崩れるのを感じた。
自然について考えると、その言葉に様々な定義があるが、主に“人の手の入っていない山や森”を指すものだと思っていた。また、山や森を表す“自然”と同時に“自然さ”という言葉も頭に浮かんだ。森の中に入ると五感全部を使って身体全体で光や風を感じ、草花の匂い、揺れる木々の残像、全てを含め体感した景色として記憶している。その行為や自分が見ている景色を当たり前(自然な振る舞い)だと思っていたが、それを静止画として写すことは難しかった。そこで、ひとつの場所の風景を何層にも重ね合わせることで別の新しい景色を引き出した。自分自身も肉眼でこのように見えているわけではないが、ただの静止画よりずっと記憶に近いものになった。そして、写っている景色は確かにその日その場所で体感した景色そのものであり、その細部に目をこらすとその土地の植生、枝葉のシルエットや雲、空の⻘さも写り込んでいることに気付くはずだ。不確かだが確かに存在していたこの景色は、“自然とは何か”について私に問いかけてくる。
― 桑迫伽奈
- 判型
- 620 × 420 mm
- 頁数
- 13頁、掲載作品12点
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 300
- ISBN
- 978-4-908526-46-6