Known Unknown
第23回三木淳賞受賞作である村上賀子の『Known Unknown』。
本作は、作家とほぼ同世代の女性を被写体に、自宅や仕事場など、彼女たちが自然体でいられる場所で撮影されています。中判カメラで撮影されたそれらの写真には、被写体の顔ははっきりと写っておらず、その反面、彼女たちのいる空間や身に纏うものなど風景の細部は鮮明に写されています。
『Known Unknown』のポートレートは、美術史において長らくモデルとして「見られる」存在であった女性が、顔を見せず、「見られる」ことを意識しない、ありのままの状態として写されているという点において、新時代のポートレートであると言えます。撮影者と被写体という一方的で非対称な関係ではなく、両者ともが現代社会に生きる女性であることで、二者の間にあるカメラが鏡のように作用し、肖像写真のあり方を、境界線の曖昧な、揺らぎのあるものにしています。
顔の見えない彼女たちに、鑑賞者はいつの間にか親近感を覚える、ということもあるかもしれません。ポートレートを見た時に立ち現れる、自己と他者の境界線の曖昧さ、存在としての不確かさを前にして、皆さんは、彼女たちの肖像をどのように解釈するでしょうか。
写真集には、『おいしいごはんが食べられますように』で現代社会における人間関係と心理描写を鋭く表現し、2022年に第167回芥川賞を受賞した小説家・高瀬隼子さんに寄稿していただきました。
― 出版社説明文より
『それでも一度抱いた親密さを心から手放せないまま、写真を見つめる。わたしも、ここで生きたことがあるような気がする』
― 高瀬隼子「わたし/あなたの境」より
- 判型
- 250 × 210 mm
- 頁数
- 68頁、掲載作品38点
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-908955-34-1