Hisae Imai
1950年代からの伝説の名作を初集成。 蘇る今井壽惠
1950年代にデビューし、「オフェリアその後」に代表される文学的な世界を構築し、その前衛的なイメージで注目を集めた今井壽惠。タクシー乗車中に衝突事故に遭い、一時的な失明の危機に晒されてからは、馬を被写体にした作品制作に移行し、その初期作品は次第に知る人ぞ知るという状況になっていた。
本書では、抽象と具象が混じり合う造形を、当時まだ珍しかったカラー写真で表現した詩的な初期作品を中心に集成。傑出した写真家、今井の作品の源を初めて展開する。
1956年の鮮烈なデビュー作「白昼夢」。ジャック・プレヴェールの詩に発想を得た「ロバと王様と私」。
代表作のひとつ「オフェリアその後」では、水に沈んで死んだはずのオフェリアと老女が身体を交換し、オフェリアが再生するという新たな物語を創造した。幻想性と遊び心でホフマンの物語を解体した「海辺の記憶」も特筆に値する。
また、企業広報誌の表紙として長年制作された「ENERGY」は造形と光を相乗させた独自の達成であり、今井にとってのイメージのアーカイブであった。のちに名を馳せた競走馬の写真においても多重露光などで組み合わせている。
その作品世界としても、芸術写真家・コマーシャルフォトグラファー・営業写真家という三足のわらじを履いた存在としても型破りだった今井壽惠を、今にあらわす待望の集成である。
今井の盟友だった鴨居羊子は、1962年に書いている。「『オフェリア』の仕事の、写壇的な価値をいう場を私はもっておりませんが、このファンタジックな仕事が、なぜ今井さんの手によって、いま初めて果たされなければならなかったかという、今井さんに対する賞讃と信頼と同時に、写壇に対する不安と不信感のようなものは否定できませんでした」。この言葉は、演出を用いて幻想とポエジーを定着する写真をつくり、コマーシャル的にも成功しながら日本写真界とは乖離していった今井壽惠という型破りな写真家、日本写真史において最も成功した女性写真家が、写真界から忘れられる道行きへの予言だったのではないだろうか。
―「蘇る今井壽惠」戸田昌子(写真史家)
― 出版社説明文より
- 判型
- 290 × 215 mm
- 頁数
- 176頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2022
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-86541-144-7