空き地は海に背を向けている
「―――あの映像はぼくの記憶の水底に澱のようなものを残し、それは今になって確かな熱を帯びていた。」
2023年に開催された第三回ふげん社写真賞で、エントリー138名からグランプリに輝いた、1985年浦部裕紀の写真集。
本作『空き地は海に背を向けている』は、2011年3月11日の東日本大震災に端を発しています。当時東京にいた浦部は、メディアが連日衝撃的な映像を流し、「連帯」を熱心に呼びかけ、そしてそれを忘れていく社会に強烈な違和感を抱いていました。9年後、パンデミックが全世界を覆い、「自粛」や「ステイホーム」などの言葉が飛び交うようになった時、浦部は被災地で「安心と安全」のために建設された防潮堤のことが気になり、複数回にわたって足を運ぶことになります。そこで海と陸を無機質に分断する巨大な防潮堤と、コピー&ペーストを繰り返したような防風林の、あまりに単調すぎる風景を目の前にして、当時繰り返しモニター越しに見ていたショッキングな津波の映像の記憶との、あまりの落差に眩暈がしたと言います。その実感を一枚ずつ定着するかのように、岩手県宮古市から茨城県東海村までの海岸線沿いの空き地や、震災伝承館の模型、延々とつづく防潮堤、そして靄のように脳裏に浮かび上がる津波の映像を、東京の自宅でモニターにシフトレンズを向け長時間露光撮影していきました。
東日本の海岸線の景色と、脳裏に焼き付いて離れない映像の記憶が、交互に立ち現れるこの大判写真集は、浦部が社会や自分自身に対して感じた「やりきれなさ」や「怒り」が映り込み、2011年以後に生きる私たちに強く揺さぶりかけるでしょう。
― 出版社説明文より
- 判型
- 249 × 312 mm
- 頁数
- 96頁、掲載作品86点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-908955-30-3