Somewhere not Here
渡部はこの作品において、自らの意識の底にあるイメージを写真で掬い上げることを試みています。海、都市、草木など、実在する風景を撮影した写真からは現実感が消え失せ、一様に「ここではない、どこか別の場所」を暗示しているように見えます。重苦しい空気を孕んだビルの谷間、眩いばかりの光に包まれた丘などの写真には、不安定さと美しさが同時に存在しています。
2013年の個展「18 months」にて渡部は、福島第一原子力発電所事故で警戒区域に指定され、非日常化してしまった故郷を、自分の記憶に残る「日常の故郷」と静かに重ねるように記録しました。一方、今作『Somewhere not Here』において渡部が写真化したイメージは、日常を被写体としながらも、その奥底に見え隠れする不明瞭なもの-「不穏な方向に変化していく世の中の空気感(非日常感)や不安な感情、不確かな希望(渡部の製作メモ)」-に接続しているように感じられます。 渡部が覗き込んだのは、水面につかみどころのない希望が輝き、川底に得体の知れない不安が堆積した、現代社会を流れる川のようなものなのかもしれません。― 渡部敏哉ホームページより
『Somewhere not Here』では、渡部敏哉は意識の奥底に潜り込み、不思議なリアリティのあるイメージを作り出しています。現実の風景を撮影した写真の中では、現実が消え、「ここではない、どこか別の場所」にいるような感覚になります。美しさの中にある不穏さ、不安定さが見る者に伝わってきます。
この中間の世界に私たちを連れて行こうとする彼の意図は、日本の「間」の概念に影響を受けているのかもしれません。間や不在を作り出すことで、意識や熟考の瞬間を確立するのです。渡部のイメージにある空虚さは、私たちに立ち止まり、考えさせ、私たちの思考や周りの世界への関わり方を高めてくれます。
― Annemarie Zethof (居場所ギャラリー ディレクター)
- 判型
- 280 × 205 mm
- 頁数
- 104頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語
- エディション
- 400
- ISBN
- 979-10-95424-25-3