星霜連関
10年程前、青森県の八戸に移り住んだ事があった。住んでいると土地の情報が様々なところから入ってくるが、とりわけ祭りの情報を数多く耳にした。古くから伝わる祭り、伝承は土地を多層的に捉えるのに有効な手段となる。私はなかば必然的に、数多ある情報の中から土地にまつわる祭りや伝承を抽出し、それを手掛かりに撮影することにした。ある日、八戸の古い神社で獅子舞の踊りを見たその瞬間、タイムスリップしたように原始の時間へ戻ったように感じた。それはとても言葉にし難い経験であり、その未知なる感覚が私の心に大きな揺れを生じさせた。それから東北での撮影を終えたあと関東に戻り、さらに三重県の伊勢に移り住み撮影を続けてきた。
「かの始めの時」という原始の時間、人類の最初に生まれた人々が風景や土地、石や木や水など様々なものの表層に現れる可視と不可視の境に何を見て、何を感じていたのか。それは私の感じた未知なる感覚とは違うものだったのだろうか。各土地を移動する中でそれぞれの場所の地霊とでも言うのか、土地の持つエネルギーを身に受けながら移動してきた気がする。どこを歩いていても私がそこにいるという多中心的な感覚は、天と地を繋ぐコスモロジーが私の肉体を媒介にして合一している様に思えた。それは私が獅子舞を見た時に感じた未知なる感覚とも重なり、そこで生じた揺れが私にシャッターを押させる契機となっているように思えて仕方なかった。私はその未知なる感覚を、印画の上に現す事が出来たらこれ以上の喜びはないと思っている。
― 作者テキストより
- 判型
- 297 x 297 mm
- 頁数
- 48頁、掲載作品40点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行日
- 2015
- エディション
- 500