瞽女
三人の女が過疎化した村の中を一列になって歩く様子が、モノクロの写真におさめられている。視力のある女が先頭を歩き、後に続く女は左手を前の者の肩にお いて歩く。彼らは、村と村を渡り歩きながら、彼らを家に泊まらせたり、銭や食料を施したりする者に物語をかたる盲目の芸能者「瞽女」という。このような者 はもはや日本にはいない。
1970年初頭、写真家・橋本照嵩は瞽女の旅に同行することを許された。その二年間の彼女らとの旅により撮られた写真を集めたものが、この驚くべき写真集「瞽女」である。
こ の本は手短にいえば四つの部分に分けられる。冬、春、夏、秋である。季節によって写真はそれほど変わらないが、風景が変わる。四つの季節を通して、橋本の 写真はこの三人と過ごした日々を記録している。彼は、瞽女たちが風呂に入る様子、床でくつろいでいる様子、夜に眠っている様子、村と村を絶え間なく放浪す る様子を撮った。しかしながら、この瞽女という職業が、彼らと彼らの客を親密に結びつけるため、私たちは瞽女が訪れる者たちの暮らしまでを一瞥することが できる。子どもたちが台所の机まわりをうろついている様子、農夫が酒の席で大笑いする様子、家族が写真を撮られるために道に並んでいる様子。
グレーを排したコントラスト、それにより家、木、影、顔が黒と白のみで形作られる——橋本がとったこのめざましいヴィジュアル・スタイルによっ て、この本には明瞭さを保った絵画的超現実性が見られる。旅中の写真はまるで女たちを風景がのみ込んでいるようで、また、顔が写っている場合には、その感 情が鮮やかに見えてくる。この本に収められている写真の多様性(と量感)は、この時代の東北日本の田舎暮らしの鮮やかで痛烈な理解へと読者を導く。
「瞽女」はこの主題における決定的な写真集と言える。しかしそれ以上に、過去のライフスタイルの魅惑的な、生き生きとした記録である。
- 判型
- 185 x 245 x 16 mm
- 頁数
- 239頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 1988