草匂う日々
畑の草取りをした後に、雑草の匂いが染みついた身体で、都会の人の群れの中をカメラを持って歩くことがある。
「あなたにガーデニングなんて似あわないわ」そういう都会の女からも草の匂いがすることに気づく。付けまつ毛をした若い風俗の女からも、また京都の路地を足早に歩く花街の女からも草の匂いがする。草の匂いで胸苦しくなる夏、水着姿の人々の中をカメラを持って、サンダルをペタペタと砂を飛ばしながら歩く。木の橋であった江ノ島の遠い昔の光景を思い、そして女の写真を撮った。山深き緑の森の草の匂いに誘われるにも、また自然の中で生活する人を尋ねた。林の中には文化的な薫りのする女が、不思議な笑みを浮かべて私を迎えてくれた。そして街外れの人が蔑む建物を見ると、貴重で魅力あるにもかかわらず次々と露と消えてしまう。哀切の情と共に、せめて写真に残さねばと思うのである。
― 溝口良夫(本書あとがきより)
- 判型
- 247 × 258 mm
- 頁数
- 156頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2017
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-817921-61-1