After the Snowstorm
私は北海道在住の写真家で、北のランドスケープを着色仕上げする作品に取り組んでいる。四季を通し撮影するなか、冬に現れる無彩色の大地に立つとすべての雑念を取り払ってくれる無とも言える世界が広がり、何かが見えた。これは純粋なモノクロームの小世界として再現したい。それは、雪原とそこに浮かぶ植物のフォルム。
北海道は季節の移り変わりが明確だ。冬は長く、私の暮らす平野部ですらおよそ四ヶ月ものあいだ断続的に降雪が続く。数メートルに及ぶ積雪、時に人の命まで奪う脅威を見せる悪天候には辟易し気分が滅入る。しかし一方で吹雪の過ぎた大地はどこまでも白く、穏やな静寂の世界に様変わりするのだ。ふかふかした雪原を歩くと、独特な造形が雪の上に際だつ。枯れ草だ。腰は折れ、葉は落ち、痩せて骨格があらわになった姿でありながら、雪をものともせずに立ち上がって。
黒くシャープなフォルムとなって浮かびあがるそれらはさまざまな形を見せていて興味深い。この光景と対面すると、冬を耐え抜く力強さや命の廻りを教えられているように感じる。この地に生きるアイヌの考え方に通づるような。
まるで静けさのなかから枯れ草たちの優しいささやきが聞こえてくるようで、平穏な明るい気持ちがわき上がる。厳冬期に捉えた春待つこの光景は、私に心の拠り所を与えてくれる。この光景を観る方々と共有できたらと考えている。
― 齋藤義典
*カバーに若干の折れあり
- 判型
- 230 × 160 mm
- 頁数
- 68頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 500
- ISBN
- 979-10-95424-29-1