Sunset
2024年、写真家・石川竜一は、韓国のソウル・ソンスドンの街で、その「壁」と出会った。
古い工場をリノベーションし、韓国最先端のファッション&カルチャーの拠点として生まれ変わった街・ソンスドン。
新旧が交錯する街で、石川はレンガ造りの壁に木の枝が影を落とす夕刻のたった2時間、カメラを手に、道ゆく人を撮り続けた。
本作は、20世紀アメリカのドキュメンタリー写真を代表する写真家のウォーカー・エヴァンスが、労働者を取り続けた「Labor Anonymous」にオマージュを捧げた作品である。
韓国最先端のファッションに身を包んだ若者、戦後を生き抜いてきた老人、軍服に身を包んだ青年たち─。
石川の目を通して記録された、消費者としての現代韓国人の姿に、我々もまた、同じ壁の前を歩いていることに気付かされる。
『絶景のポリフォニー』『okinawan portraits 2010-2012』(2014)で、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞した石川は、生まれ育った沖縄を拠点に作品を撮り続けている。2021年には、山に分け入り、自然の中で自ら狩猟し、食した生物の臓器を撮った『いのちのうちがわ』を発表。2022年には、それまでの集大成となる『zk』を発表した。
「絶景」から「zk(ゼッケイ)」へ。石川は言う。
「『zk』は、写真を撮ることで見えてくる、自分の内側と外を分かつもの」である─と。
故郷・沖縄を離れ、韓国で石川がみつけた「zk」とは何だったのか。
Consumer Anonymous
どのようなことでも同じなのかもしれないが、今ここにいることに、大した理由なんてなく、そこに何かしらの意図や思惑があったとすれば、そのほとんどは、生きようとするどうしようもなさを除いては、社会的な何かなのかもしれない。かろうじて、間接的に、生活と繋がっているようでもある、消費者の視線。
細菌のように増殖していくショッピングストリート
立ち並ぶブランドショップ
行き交う人々
身を飾る肩書きと、そのコピーの数々
流行りの飲食店で付けたシミそれはとめどなく湧き出る欲望に纏わりついた哀愁のようだ
そんな思いの先に現れた景色歴史を思い起こさせるレンガの壁
傾いた太陽の光によって、重なるように落ちた木影その自明的であるような意味に救いを求めていたのかもしれない
彷徨う肉体
引き剥がされた知性
それらを繋ぐ精神消費とは、人のつくり出した意味の消滅であり、物質が続けてきた変換運動であり、エネルギーのインフレーションでもある。
― 石川竜一(本書あとがきより)
$21.92
税込- 判型
- 237 × 168 mm
- 頁数
- 32頁、掲載作品30点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2025
- 言語
- 日本語