二度目の朝に
夏が始まる頃、実家の愛犬が亡くなった。
息を引き取った場所はお風呂場。
其処は3歳の私の目の前で祖父が亡くなった場所だった。
前日までいたその場所から連絡が入る。
「30分程前に亡くなりました」。
母からのメールを見たそのとき、幼い頃の曖昧な記憶と今回の出来事が、このお風呂場を通して重なり交わっているように感じた。
お風呂場の湿気を帯びた空気の中でシャッターを切っていると、晴れた太陽の下にいる時よりも、ペタペタとした感触が生と死を身近に思わせた。
日常の中で水気を感じる部分を捉えていくと、蛇口から水が流れるように、川が上流から下流へと流れて行くように、日々が過ぎ去っていき、今回の出来事も遠ざかっていく感覚があった。
これまで生きてきた時を一本の線とするならば、その線はゆっくりと進み続けている。
私は着実に前へ、進む線の先へと流されている。
この出来事は私から遠のいていくが、祖父のことを思い出したように、いつだって記憶が蘇るような一本の線状にある。
決して消え失せたわけではなく、いつまでもそこに留まっている。
― 田近夏子「二度目の朝に」
- 判型
- 250 × 225 mm
- 頁数
- 59頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 400