旅記

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12月13日 - 12月22日

本書は1987年頃から2018年までにアジアとヨーロッパで撮影された約220点のモノクローム作品で構成されています。未公開の写真を中心に、西村が90年代に歌人・福島泰樹が主宰する文芸誌『月光』の連載「写真紀行——海道」で発表した作品も含まれています。

80年代の香港、90年代のポルトガル、オランダ、イギリス、トルコ、2000年代のべトナム、ウィーン、パリ、韓国、青島、それから西村が近年に撮影したローマ、プラハ、2015年11月13日のテロの翌日パリの町の写真など。彼女は「記憶と旅」を軸に、国境を越えたその旅先でも変わらぬスタンスで作品を撮影し続けています。西村の写真は、彼女がどこへ向かおうとも単なる旅写真という範疇を超え、それはむしろ私たち人間の日々の営みを映し出すポートレートと言えます。

― 出版社説明文より

「アジアを旅していると、なぜか懐かしい気持になる。小学校へ上がる前のことだが、あの頃、母から近所の蛇崩川にかかる田端橋を渡ることを禁じられていた。渡った先に車の往来がある広い通りがあるからだ。しかし、向こう側へ行きたくて母に黙ってひとりで遠征するようになった。通りを渡ると、そこには住宅があり、尼寺がある。左手に行くと木々が鬱蒼と茂り、昼間でも薄暗い一画があり、私は「オオカミの森」と名付けていた。さらに進むと、まだ未舗装だった環七通りに出る。さすがに心細くなり引き返すのだが、その境界を超えていく時の期待感と、秘密が隠れていそうな場所が普段の安心できる世界に繋がっている不思議さに、歩いてゆく私は微妙な心地よさを感じていた。(中略)

1993年春、3年間続けた編集の仕事を辞め、夏にポルトガルに行った。大学でポルトガル語を専攻していた友達がいて、話しているうちに、一緒に行くことになった。リスボンからギマランイスまで北上し、その後ポルトから夜行寝台列車で一気に南下してプライア・ダ・ロシャで過ごした。再びリスボンへ戻った時は、道路に落ち葉が舞い季節が変わっていた。このポルトガルの旅で、海外を旅して写真を撮ることの気構えができたと思う。

旅の行先はちょっとしたきっかけで決まることが多い。2010年にはエリック・サティの故郷で、フランソワーズ・サガンの最晩年のヴィラがあったフランス、ノルマンディのオンフルールに行った。子供時代に好きだった怪盗ルパンの家があるというエトルタにも立ち寄った。さらに2011年にプラハに行ったのは、私の大叔父の回顧録の中に『プラハのユダヤ人墓地へ行った』という一行があったからである。また、2013年イタリアのサルディーニャは、米映画で悪党が出身地を聞かれ『サルディーニャ』と答えたのを憶えていたからだった。普段は忘れている何ということもない記憶が折にふれて立ち上がり、旅先へ誘うのだ。」

― 西村多美子『旅記』あとがき「記憶と旅」より

キーワード: スナップショット

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判型
257 × 210 mm
頁数
264頁
写真
モノクロ266点
製本
ハードカバー
発行年
2019
エディション
500
ISBN
978-4-905453-82-6

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