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日本人写真家アバロス村野敦子の写真集。
アバロス村野は、モチーフとなる被写体、場所、史実等と自身との出会いを起点に、点と点を結ぶようにコンセプトを構築し、作品を作ってゆく。これまでに、津波で流され米国西海岸に辿り着いた漂流物、世界一の長さを競った英国と日本の吊り橋、日本の地質を撮影し、写真集を制作してきた。
「2年前の旅の主なる目的はパリにあったが、他の街にも行ける時間の余裕があり、私と夫はアルザスに行くことにした。
アルザス地方では、コウノトリ伝承が有名である。
「なぜ私たち夫婦のところには来てくれなかったのか」
コウノトリを見つけたらそう文句でも言ってみようか、などと列車の中で話をしていた。
コウノトリは春から秋にかけてヨーロッパで子育てをした後、秋冬は暖かいアフリカ大陸に渡る。
そう知ったのは、晩秋のアルザスに着いた後だった。そうして私たちは、主のいない空の巣ばかりを見上げ続けることになった。空の巣は多くのことを語ってくれたり、投げかけたりしてくれ、私の心を揺さぶった。空(から)には不思議な力があるようだ。
サンスクリット語において、空の語源は「家に人がいない」というような時に使われ、それは「期待される何かを欠いた」状態という意味らしい。カメラもその中身は空ではないかとふと思い及んだ。
カメラ・オブスキュラの原理からも分かるように、基本構造を考えると中は空洞であり、空の箱に等しい。
空の箱が意思を持って対象に向かう時、暗い空間が開く。そして光とともにその表像を内に取り込んで写真が生まれる。
期待して欠けながらも無ではない「空」をとらえ、肯定された世界は明るく、見晴らし良く見えて来た。」― アバロス村野敦子
- 判型
- 117 × 256 mm
- 頁数
- 52頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2021
- 言語
- 英語、日本語