水辺にて
私の大学は、重慶にある。大学の近くには嘉陵江という大河が流れている。大学正門も出て、20分ほど歩き、途中にある商店街を通過ぎて、角を曲がったところで、水の流れる音が聞こえてきた。それから、嘉陵江が目に入った。
大学の近くの川辺は長くなく、散歩すると、往復2時間ほどである。私は、大学3年生の頃に写真を撮り始めた。その頃から、ほぼ毎日撮影をしに川辺へ行っていた。カメラを握り、流れに従い、また逆らい往復する。嘉陵江は飲料水の水源なので、川岸の環境はきれいで、空気も新鮮である。近隣の人々は、いつもレジャーに川辺に行く。大人たちはお茶を飲み、麻雀をし、世間話をする。子供たちは走って遊んでいる。私は、いつも同じ人たちと出会い、彼らは独自に水辺に座り、川を眺め、茫然としている。人々は、流れを借りて自分の精神を洗っている。その後、立ち上がり、生活に戻る。
出会った人全てを記録することはできず、一人の全部の時間を記録することもできない。私の見た風景は、ただ彼らの時間の中の小さな断片だけである。しかし、たくさんの似ている感情の断片から、この一群が持つある真実の感情が見られるかもしれない。この都市の持つ側面は、流れとともに、水辺の人々の顔の上に、体の上に、残っている。これらの写真は、表象でしかなく、開かれた表象である。
― 作者テキストより
中国の若手写真家・宛超凡(エン チョウハン)の作品集。本書は第5回キヤノンフォットグラファーズセッション・キヤノン賞の受賞作品。宛超凡が大学生の時に、嘉陵江という大河の川辺で行き交う人々や、日常に繰り広げられる川辺での断片的なストーリーを撮り続けたもの。大学生時代、毎日同じ場所に足を運んだ宛超凡は、目の前に広がる普遍的なストーリーを独自の感覚で捉え写真の中に表現した。
- 判型
- 256 × 187 mm
- 頁数
- 56頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2016
- 言語
- 日本語、英語、中国語
- エディション
- 500