流動的辺界
汽水域で揺らめくあらゆるものの騒めきに対して──
台湾の新進の作家である蘇厚文(SU HOU WEN)は、2014年から2023年までの約10年間にわたり、自身の住む地域の河川に沿って撮影を続けた。
上流から下流まで変転してやまない河がかたちづくる地形、動植物の営み、人との関わり。
水は、色濃い生命のあり様を映し、混沌と交じり合う。
蘇の身体も、遭遇する存在に反応し、見ることを通してすべてを受け入れようとする。
河辺ではいかなるものも変容の只中にあり、目に見えない岸を行き来しているかのようだ。
存在のなかに時間の層は浮かび上がり、河は記憶を書き換えながらこの時を流れゆく。
歩きつづけ、見つづけたのは、「流転する境目」という一本の河に他ならなかった。
― 出版社説明文より
このシリーズは、影像と文字を駆使して河の輪郭をすくい上げた作品で、2014年から2023年までのおおよそ十年にわたって制作した。僕が新北市の新店区にある安坑に引っ越してから、ひらめいたアイデアでもある。(中略)
太古の昔、人と河は不可分の関係にあった。しかし、都市に住まう現代人にとって、河川はレクリエーション活動を楽しむための観光地となってしまった。河の始まりは神話となり、おかしな石もまた忘れられたモニュメントと化してしまった。僕は心から願った。俗世を離れ、様変わりしたこの桃源郷が、河の一部になってくれればと。僕は知る由もなかった。写真におさまってしまったものたちが、果たして古くからこの地で暮らしていた住民なのか、それとも時を超えて受け継ぐ子孫なのか、もしくは都市の喧噪から離れて身を潜める隠れ人なのかを。気の向くままに歩いた。僕を惑わせ、僕の好奇心を搔き立てた人々や光景、それら物事は、記録されてしまったことでメタファーとなり、目指した生活の奥にある異質性をあぶり出してくれた。河とともにある生命は 独自のドラマを紡いでいる。糸の端は次第に綿密な線となって、流転する境目に僕を括り付けた。
― 蘇厚文(本書あとがきより)
- 判型
- 305 × 235 mm
- 頁数
- 152頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語、中国語
- ISBN
- 978-4-86541-187-4