追想
60年代後半から写真家として活動を始め、現在に至るまで自身のペースを守りながら制作を続けてきた西村多美子。これまでに12冊の写真集を発表し、初期の代表作『しきしま』や70年代の作品をまとめた『憧景』、初期から近年の作品を三部作の写真集にまとめた『旅人』シリーズなどは特に海外から高い評価を得てきた。本作『追想』はそれらの写真集にも掲載されていない、1968年から70年代の間に撮影した未発表の作品群から約半世紀の時間を経た現在の視点で厳選し、まとめた作品集となっている。近年、日本の女性写真家たちが世界的に注目される中において50年以上のキャリアを持つ西村多美子の作品は、今まさに世界に「発見」されつつ過程にあると言える。
写真集『追想』は1968年から70年代に撮り溜めた写真1000枚ほどの中から選んだ写真だ。
写真学校の学生だった1968年から69年にかなり集中して写真を撮った「実存」は、唐十郎卒いる劇団状況劇場の芝居の写真で、卒業制作として発表した(2011年に写真集として刊行)。
1968年12月、復帰前の沖縄へひとり旅をした。海岸では山羊の解体に立ち合ったり、大家族の家に泊めてもらったり、コザ(現沖縄市)の町では米人街に入り込まないようにと注意されたり、すべてが忘れられない体験となった。
卒業後の70年代は時間だけはたっぷりとあり、毎日のように撮影し、旅にもよく出かけた。振り返れば、いちばん多く写真を撮っていた時期だ。子供の頃から北国に憧れていたからだろうか、雪に埋もれる季節を体感したくて、冬の東北や北海道、北陸へはよく出かけた。
1973年、それまでの旅の写真と東京でのスナップをまとめて、写真集『しきしま』を刊行した。リアルタイムで、ひとりで作った『しきしま』だったが、50年の時を経て、『追想』はあの時代を再び旅しなおしているような気持になる。しかし、それはまったく別の旅なのだ。
2024年4月、個展のため初めてニューヨークを訪れた。ブルックリンのアパートからマン
ハッタンのギャラリーへ通う車の中から、またアパート周辺を歩きながら撮影したフィルムは、1週間で12本になった。アパート近くの公園のマーケットをスナップしながら、私は50年前とまったく同じことをしているなと、思わずひとり笑ってしまった。
― 西村多美子
- 判型
- 251 × 190 mm
- 頁数
- 168頁、掲載作品113点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2024
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-910244-39-6