空火照の街
「大阪」にこだわり撮り続けていた百々俊二は、1983年にベトナム戦争への徴兵を拒否し日本とタイで活動していたアメリカ人映像作家のバイロン・ブラック氏から「バンコクは大阪に似ていて面白いから一緒に行こう」と誘われその地を踏む。それ以来愛用のローライを手に35年の月日を撮影した、291作品を収録。
田中義久によるアートディレクションと編集により、全てのシーンで見事に時間・空間が抽象化されている本書。本のサイズは225 × 225 × 33 mmと、百々の6×6作品を最大限に引き出している判型。また、サイド(小口)はシルクスクリーンにて印刷され、物体としての存在感が百々俊二の作品と重なり、手に取り開いた瞬間から百々俊二の世界に引き込まれていくようである。
『空火照の街』は、百々がバンコクで15年近くの歳月をかけて撮影した作品の集大成となる。百々は1983年から1991年まで計7回、2014年から2018年までほぼ年2回バンコクを訪問し、急成長を遂げるアジアの一都市の変遷を精力的に撮影した。そこには、急激な変化に負けない、強かな市井の人々の営みが記録されている。……大阪を中心とする世界観を持つ百々にとって、八十年代のバンコクは戦後直ぐの大阪を彷彿とさせるものがあり、格好の撮影題材であった。うだるような暑さのなか、多彩で賑やかな商店街や市場、食材の匂いが充満する屋台、猥雑な繁華街や犯罪が発生するような路地、人工灯が消えることのない夜。住人の生活が内と外で隔てがなく、路地上で営まれる、下町独特の雰囲気。川に接した街の住人。肉体労働者。信仰に勤しむ人達。バンコクの持つ雑多、複雑で強烈な印象が、百々の白黒プリントの中に閉じ込められている。百々は、ローライフレックス6x6の中判カメラを使用してバンコックの人々との距離感を自在にコントロールして、的確なフレーミングを選択する。そこには、目と目が会い、そこに住んでいる者が持つような撮影眼と、それに交わされる被写体の優しい眼差しが感じられる。都市の変遷を、時間をかけて撮影した『空火照の街』は、観る者に時間の軸を越えてバンコクの町中を歩いたような感じを与え、百々の欲する都市の全体像を露呈する。
― 中森康文(テート・モダン シニア・キュレーター)による本書収録エッセイより
- 判型
- 225 × 225 × 33 mm
- 頁数
- 304頁、掲載作品291点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2019
- 言語
- 英語、日本語
- エディション
- 1000
- ISBN
- 978-4-908526-37-4