山内道雄

山内道雄は写真家としてキャリアをスタートさせた80年代初期より、都市のスナップをモノクロームでとらえ続けてきました。作品制作の原点である東京のストリートスナップは山内の代名詞とも言えますが、90年代からは上海、香港、コルカタといったアジアの都市へ撮影の場が拡大し、台湾北部の港町基隆を撮った『基隆』で第20回林忠彦賞を、バングラデシュの首都ダッカを撮影したシリーズ『DHAKA2』で2015年には第35回土門拳賞を受賞しています。

山内にとって初めてのヨーロッパでの撮影となる『LONDON』のプロジェクトは、東京・禅フォトギャラリーのオーナーであるマーク・ピアソンに「ロンドンの写真がないので撮ってみませんか」と声をかけられたことによるといいます。

路上をひたすらに歩き、出会った事物や人々に向けてシャッターを押す山内の方法論は一貫しており、思いがけない瞬間との無限の出会い、場所が変わっても共通する人間の営み、街が内包する歴史、世界と自分との関わりが、レンズを通して山内の視線としてイメージに定着されます。

「ロンドンも東京も同じスタンスで撮ろうとしたつもりでしたが、身体がロンドンという都市に馴染んでいなかったため、その視線にも必然的に違いが生じました。東京は私の生活の拠点であり、撮影のホームグランドでもあります」
東京ではない都市を撮影する場合、通常は3ヶ月の滞在を2回するという山内はこう振り返ります。「ロンドンは約3ヶ月の滞在で撮影した都市である。ロンドンにとって私は旅行者、通過者であった」

"LONDON" 2018 © Michio Yamauchi
"LONDON" 2018 © Michio Yamauchi
"LONDON" 2018 © Michio Yamauchi
"LONDON" 2018 © Michio Yamauchi

山内はこれまでキャリアの大半でモノクロフィルムを用いて撮影をしていましたが、2017年からは『バンコ』『TOKYO 2016-2017』とカラーによる作品集を発表し、『LONDON』も全てカラー写真での構成となりました。

「カメラ機材がデジタル化して、カラーでの撮影がやりやすくなった。フィルムよりたくさん撮れるので最近はデジタルカメラでカラー撮影を続けている。撮り方はモノクロもカラーもほぼ同じである。モノクロは光と影で被写体を単純化してものの有様をはっきりさせる」「色は日々変化しているようでまた、見る人によって異なるので色にはあまり普遍性はない、と思っている。しかし写真の複写性を考えると、現実には色彩があるわけだからカラーの方がより忠実に被写体を複写するともいえよう」。

今年69歳になる山内は、現在もなお自身の写真に対するアプローチの革新と開発を追求し続けています。

山内道雄写真展「LONDON」
禅フォトギャラリー 2019年8月9日(金) — 8月31日(土)
クロージングパーティー:2019年8月30日(金) 18:00-20:00