The Scrap
2010年代から2020年への流れの中で、横田大輔(1983年生まれ)と小林健太(1992年生まれ)は、日本だけでなく、グローバルな視点で見ても、極めて重要なアーティストと言えるだろう。
この『THE SCRAP』は、その2人ががっちりと組んで行った特別でレアなコラボレーション作品なのである。このそれぞれの体験は、その後の2人の「分岐点」ともなったことでも注目に値する。
横田は、アムステルダムのFoam写真美術館でも個展を行い、また国際的な賞も数多く受賞してきた。日本の写真賞のトップである木村伊兵衛賞も昨年受賞。また、小林健太もアメリカ、イタリア、ベルギーなどで個展を行うにとどまらず、ダンヒルやルイ・ヴィトンのコミッションワークスも大きな話題となった。しかし、彼らの作風は共にエクスペリメンタルであり、かつデジタル時代における写真とは何かという根源的な問いを突き付ける。横田は一貫して、写真におけるマテリアリティを問題にし、時にはイメージなしに、フィルムそのものの変成をデジタルスキャンし、作品にする。一方、小林は徹底したデジタルネイティブであり、撮影により入力した情報を、あえて身体的なドローイング行為によってトランスフォームさせることにこだわる。
この『THE SCRAP』は、用意した画像をメールで互いにキャッチボールし合い、加工し続ける過程を、何重にも行うことで、画像生成されている。この行為は、世界全体がデジタライズされ、また、ヴァーチャルワールドに、誰もが不可避的に生きることを宿命づけられた時代に、どのようにクリエイションが可能か、というアポリアへの返答ともいえるものだ。横田の写真は、写真そのものを破壊しながら前に進むパラドックスをもつ。それに対して、小林は、情報のプレイフルな変化を、エンドレスなもの(デッドエンドのないもの)ととらえており、その結果、タイトルとは裏腹に、作品は廃墟的なものではなく、「生命体」あるいは「来るべきもの」と呼ぶに値する作品に仕上がっている。
小林健太は、この作品を「まるで音楽のようだ」と言ったが、ここに、奇跡的といってよい「新しい美学」が誕生したのである。
― 出版社説明文より
- 判型
- 318 × 236 mm
- 頁数
- 40頁
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2020